これまでの医療は医師が中心の、「先生にすべてお任せします」と患者さんは医師にすべてを任せる父権的な医療で、これからは、患者さんが自分で判断して治療方針を決める患 者中心の医療が理想だと言われています。
頭のMRI検査で小さな動脈瘤が見つかる場合があります。検査した医師に、「来週まで手術をするかどうか決めてきて下さい」と言われた患者さん は、どうしたらいいか分からなくなり受診することがあります。このような患者さんは、1人や2人ではありません。ある患者さんは無事手術を受け、 ある患者さんは手術をせずに定期的に検査をして大きくならないか経過を見ています。
患者さんが治療法を選ぶといっても、患者さんが医師と同じ程度の知識と経験を持っている訳ではありませんから、患者さんだけですべてを決めること はできません。できるだけ詳しい判断材料を患者さんに与える必要があります。この場合、どの判断材料を患者さんに与えるかで患者さんの判断は変 わってきますので、医師側の意思が大きく関与することになります。つまり、患者さんが医師のアドバイスなしに判断することはできないし、患者さん の判断にはかならず医師の考えが反映されます。
このように考えると、患者中心の医療というのは成り立ちません。やはり、医師と患者さんが対等の立場というよりは、むしろ医師が主導権を発揮して 診療方針を決めていくのが現実的ではないかと思います。ですから、私は手術をしないと決めた患者さんを医院に呼び出して説得し、手術をするように したり、私の考えで転院先に病院を変えてもらったこともあります。患者さんに必要な情報を与えて判断を変えているので、これも患者中心の医療とい えばそうなります。しかし、私は患者さんにアドバイスを与え、自分の方針を強力に勧めるやり方を貫いています。
医学に関しては、こちらはプロですから、私と患者さんの知識とは比べ物にはなりません。限られた情報を与えて、患者さんに判断を丸投げすることを 患者中心の医療と考えている人もいるようですが、これには私は反対です。あくまでも、患者さんに強力にアドバイスする立場で相談に乗るのが医師の 立場だと思っています。医師も患者さんもどちらも納得する方針を選ぶのがベストだと思うからです。医師が納得しなくても患者さんが選んだ治療方針 だから仕方がないとしないで、医師も納得する治療方針を選ぶのがベストだと思うのです。
前のニュースレターで、通院する患者さんの病歴要約を作成していることを書きました。患者中心の医療を推し進めるためにも、病歴要約を充実させて いくことが必要になります。この病歴要約は、私が知りえた病歴ですので、実際は他にたくさんの事実があるはずです。それを患者さんとともに内容の ある病歴要約に変えていこうと思っています。
第41号より