世の中は景気が悪く、世界の大企業もリストラです。 その成果が出てきたのか、景気は上向き加減になってきたようです。 この変化の中で、「年功序列」が崩れ、「成果主義」を取り入れる企業が増えてきました。
私も一人の経営者として、職員の評価ということを時々考えます。 組織の中では、ものすごくできる人と、全くできない人は誰が見てもすぐに分かります。 でも、大部分の人は、この二つには当てはまりません。 しかし、「成果主義」を取り入れた組織では、仕事を評価して給与を決める以上、 必ずこの差がない大多数の人たちに差をつけなければなりません。
組織の中にいれば、その立場により発揮できる力が違いますし、目に見えてくる業績も違います。 これを数値で表すために、個別に目標を立てて客観的に評価するというやり方があります。 学校の評価も5段階評価から、どの程度頑張ったかを評価する方法があるそうです。
この方法では、目標を低く設定して、達成率を高くするというのが常識でしょう。 わざわざ目標を高く設定して、達成しにくくする人はいないでしょう。 もしも高く設定した目標を達成した場合には、その年は高く評価されたとしても、 翌年はもっと目標が高くなるわけですから、長く続くわけがありません。 結果として、目標を低く設定して、達成率が高くなるようにするのが常識でしょうから、 組織全体としてみると、成長は期待できないことになります。
野球選手のように、前年の成績で給与が下がることは通常の年功序列社会ではありません。 「成果主義」の組織では、前年よりも大幅に給与が下がることがあるのでしょう。 しかし、この「年功序列」があるために、大部分の人は落ち着いて仕事ができるのだと思います。 私の医院にもたくさんの職員がいます。 経営者として給与を決める場合、少なくとも生活していける給与を保障する必要があります。 生活が成り立たないような給与ではとても落ち着いて働くことはできないでしょう。
例えば、私自身のことを考えて見ます。一般に開業医は多額の借金を抱えています。 でも、普通に患者さんが来てくれれば、借金は返していけます。 いくら働いても借金を返していけないような診療報酬ではどうなるでしょうか。 患者さんを診察しながら医院の収入を考えていては、いい医療サービスは決して提供できません。 患者さんがよくなることを考えて診療していれば、自然と自分の生活が成り立ち、 職員の給与も払っていけるのが今の状態です。 どの職業でも同じです。生活保障がなされない状態では、いい仕事は決してできません。
日本は「年功序列」の国だといいます。本当でしょうか。私は違うと思っています。 会社に入社して、最初のうちは同じスピードで昇進して行きますが、次第に差が出てきます。 会社などで役員になれる人は、同期入社のほんの一部でしょう。 「抜擢する」ということも「年功序列」ではありません。 私たちの社会では、「年功序列」とみんなが錯覚しながら、実は年功序列ではない、 適度に「成果主義」が取り入れられている組織で働いているのではないでしょうか。
リストラをした企業の業績はよくなったとしても、 リストラされた人も含めた社会全体の景気はどうなのでしょうか? 成果主義で総人件費は削減できたとしても、組織全体の活力は低下していないだろうか? 個人の働きを重視する成果主義では、知識や技能の伝授や継承はできるのだろうか?
頑張ればそれなりに見返りがある成果主義が加味され、 安心して働ける日本型の曖昧な年功序列社会が大部分の人にとって快適なのではないでしょうか。 結局、多くの人が知識や技能を共有できる年功序列の方が、組織全体のレベルが上がるのではないでしょうか。 日本電産の永守重信社長の言葉ですが、『1人の100歩より、100人の1歩』の方が、 開業医院では重要だと考えています。
第28号より