ニュースレター33号は『天下の賢』の特集にしました。反響は大きく、私自身が大変勉強になりました。 弘高卒業生でも、『天下の賢』が浸透している年代があること、教えを受けた生徒だけでなく、 一緒に仕事をした人、部下だった人などにも強い影響力があったことなどが分かりました。 また、いろんな人から細かい情報をたくさん寄せていただきました。
弘前市立城東小学校の校長室には、小田桐孫一校長直筆の『天下賢』の色紙がありました。 私の友人の工藤浩一先生が、偶然、この4月に城東小学校の校長として赴任ました。 私が、『天下の賢』のことを書いたのを見て、小田桐校長の色紙があると教えてくれたのです。 早速、6月7日午後、医院が休診の時間を利用して、城東小学校を訪問しました。
昭和47年に城東小学校創立15周年を記念して、小田桐校長が『天下賢』としたためた色紙を寄贈していたのです。 その後、城東小学校の校訓が、『天下の賢』と定められました。
校長室には、小田桐校長が作詞した城東小学校校歌の直筆の書も掲げられていました。 『天下賢』の色紙は、校長室に掲載されていたのですが、工藤校長は、子どもたち皆の目に触れる、 玄関を入った正面の壁に掛け変えたと連絡してくれました。 緊張した面持ちで『天下賢』と一緒に撮った写真も、メールで送ってくれました。
弘前市教育委員会では、「中学生のための弘前人物志」(平成16年度で第7版)を発行していました。 工藤校長から1冊頂き、読んでみました。中学生のためとなっていますが、大人が読んでも非常に面白い本です。 弘前からこんな人物が出て活躍したのかということが分かります。 いわば、弘前が生んだ「天下の賢」です。 この中に、天下の賢の「陸羯南」や養生会の「伊東重」の項目があり、さらに、理解を深めることができました。
城東小学校の2階からグラウンド側を見ると、岩木山を正面に見ることができます。 当日は曇り空でしたが、晴れた日は、きっとすばらしい風景でしょう。 正面玄関の横には、『天下賢』を刻んだ記念碑が建てられていました。 工藤校長は、全校朝会で子どもたちに、『天下賢』のことについて話して聞かせたのだそうです。 1年生から6年生までの子ともたちに理解させるのは大変なことだったと思いますが、 子どもたちは真剣に聴いていたとのことでした。 この子どもたちの何人かは、高校生になって、弘高に掲げられている『誰人天下賢』の扁額を見て、 この話のことを思いだすに違いありません。
南城西の長谷川正人さんは、小田桐校長が弘前実業高校校長だった時に、 新任教師として赴任したのだそうです。 長谷川さんが貸してくれた、『随心ノート 小田桐孫一先生遺稿集』(昭和58年)には、弘高の校訓ともいうべき、 『規律ある自由』と『持って生まれたものを深くさぐって強く引き出す人』のことが書かれていました。
5年にわたるシベリア抑留から帰って来た小田桐校長は、『スターリン独裁の「異国の丘」から、 日本海の青を渡ってもどってみれば、祖国はまさに自由過剰の国。 ホッとしたが、同時にその規律の無さにはほとほと面食らった。 人間にとってもちろん自由は大事だが、何事も過ぎたるは及ばざるが如しで、自由過剰や自由中毒は有害である。 そこで、生徒指導の方針として「規律ある自由」という標語を打ち出した。』と書いています。 「規律ある自由」という言葉がいつも頭の中にある私は、 最近の世の中では、「自由」と「身勝手」を混同しているのではないかと思っています。
『持って生まれたものを深くさぐって強く引き出す人』の出所は、 高村光太郎の「少年に与う」という詩であることが分かりました。 前後を省略して紹介しますが、『えらい人や名高い人になろうとは決してするな。 持って生まれたものを深くさぐって強く引き出す人になるんだ。 天からうけたものを天にむくいる人になるんだ。 それが自然とこの世の役に立つ。』、という詩です。 インターネットで検索して見ると、有名な詩のようですけど、 ほとんど詩を読むことがない私は全く知りませんでした。 長谷川さんによると、弘実の生徒会誌「まんじ」編集委員長をしていた生徒が 「自分が好きな詩を今年の巻頭詩に使いたい」と提案したのが、 高村光太郎の「少年に与う」だったのだそうです。 小田桐校長は生徒がこの詩を選んだことをとても喜び、 すぐに詩全文をガリ版で印刷して全教職員に配布し、その年の卒業式校長式辞にも引用したのだそうです。 これが『持って生まれたものを深くさぐって強く引き出す人』のルーツだったのです。
西茂森の三浦稔さんも弘前実業高校農業科を立ち上げる時に小田桐校長と仕事をしたのだそうです。 小田桐校長について貴重なお話を伺いました。 その他、小田桐校長が住んでいた、撫牛子の人たちからも貴重な情報を教えてもらいました。 小田桐孫一校長が、たくさんの人たちに影響を与え、 そして、それぞれの心の中で今も生き続けていることが分かりました。 教育って本当に大事なものですね。ありがとうございました。
第34号より