いくら介護保険制度がよくなっても、家族の負担が増えるのは目に見えています。 新聞を見ると、外国に比べると入院ベッドが多いので削減しなければならないという記事を見ます。 でも、本当でしょうか。町医者として診療していると、行き場を失った患者さんの家族の方から、 どうしたらいいかと相談を受けることが少なくありません。 このような状況は、ここ何年かで多くなっていますので、私は入院ベッドは足りないと思っています。
一人暮らしの老人が多くなっているのは事実です。 具合が悪くなった時に、いろいろな理由で、身内の方が面倒を見るのが困難になってきています。 これを単純に社会的入院と片付けても、老人保健施設はどこも満員で、すぐに入所できる状態ではありません。 大きな病院もいつも満杯で、寝た切りに近い高齢の患者さんを、無制限に引き受ける余裕もありません。
町内の状況を、私が開業した10年前と現在とで比べて見ましょう。 10年前は、茂森新町と茂森町には5軒の開業医院がありました。 油川内科医院、柴田外科医院、吉田内科小児科医院、木村内科医院、森クリニックです。 このすべてに入院ベッドがありました。仮に19ベッドずつあったとすると、95床ということになります。
現在はどうでしょうか。油川内科医院、柴田外科医院、森クリニックの3つの医院はなくなりました。 吉田内科小児科医院と木村内科医院は入院施設を閉鎖し外来診療だけを行っています。 私の医院は実質15ベッドですので、ここ10年で95ベッドから15ベッドに減ったことになります。 この減った数は、老人保健施設に移ったのかも知れません。 しかし、老人保健施設では医院と同じ程度の治療はできませんので、 単純にベッド数と機能が移ったとは判断できません。
2005年は、出生数が107万人で、死亡数が108万人と、 初めて死亡数が出生数を上回り人口が減少したと推定されています。 出生数は推測の域を出ませんが、死亡数が増えて行くのは確実です。 第1次ベビーブームに生まれた、いわゆる団塊の世代は250万人です。 人間は必ず死ぬのですから、死亡数は年間200万人の時代がきます。つまり、今の2倍の死亡数です。
介護保険制度が整備されて、在宅で最期を迎える人が増えるのでしょうか。 一人暮らしではどのようにしたらいいのでしょうか。ベッドを減らす政策がこのまま進行すると、 この200万人の患者さんをどのようにして扱うのか、私には考えが及びません。 この近い将来は、私自身は医師としてよりも200万人の一人の患者として生きて行くと思いますので、 これを乗り切るのは私の次の世代の医師たちということになります。しかし、心配です。
国の政策として、医療費削減は避けて通れないようです。 しかし、このような町内の医療状況を見るだけでも、医療費を減らした時に、 そのしわ寄せを受けるのが患者さんとその家族であることが分かります。 このまま医療費を削減する政策を受け入れるのか、一人ひとり考える時期だと思います。 私は反対です。弘前市内では、入院ベッドが本当に足りません。
第31号より