昨年ほど長年の信頼が失われる事件が次々と起きた年はなかったと思います。 特に、「食の安全」という、人が生きていく上で最も大事な食に関して信頼が揺らいだことは大変なことです。 医療の世界は信頼で成り立っていますので、このような事件が起こると、 私はいつも自分が行っていることと重ねて考えてしまいます。 つまり、賞味期限が切れた食べ物をごまかしたり、表示内容と違う物を売ったりした事件を見て、 自分もこれと同じようなことをしていないだろうかと。
日常、何気なく行われている医療行為ですが、私たちのような小さな医院でも非常に専門的なことが行われています。 プロ集団による医療行為ですから、素人には分からないことがたくさんあります。 でも、患者さんは私たち医療従事者を信頼して、医療サービスを自然な形で受けています。 これに応えるために、私たちは自分たちが提供する医療サービスが、患者さんが期待した内容なのかをいつも考えています。 つまり、患者さんが信頼して医療サービスを受けていることに対して、信頼に値する医療を提供する義務が私たちにはあります。
医療機関がどのようなレベルのサービスを提供しているのかを直接知ることは容易ではありません。 この医療従事者と患者さんの間にあるギャップを埋める基本が、 医師免許、看護師免許、臨床検査技師免許など、専門職の免許です。 このような専門職資格で、その専門性を保証するものです。その上、医療職には強い倫理観が要求されます。 これらを前提として、患者さんとの間に信頼が生まれ、初めて医療が成り立つと考えています。 いくら免許があろうとも、信頼がない限り医療は成り立ちません。
それでは、信頼というのはどのようにして生まれるのでしょうか。 これまでの歴史が保証してくれるブランドを信じる人もいるでしょう。 信頼できる友人が勧めるので信頼して自分の身を任せることもあるでしょう。 でも、基本的には自分のこれまでの経験と、人と人との交流から信頼が生まれてくるのだと思います。 これがこうだからと論理的な理由があるから信頼するというよりは、 何か自分の無意識の中にある感情が信頼するかどうかを決めているような気がします。
医療も含め、人と人との間の信頼が失われていく時代になりました。 インターネットや携帯メールなど、コミュニケーション技術が発達するにしたがい、 人と人との直接的な交流がなくなってきました。 生きた言葉で直接交流することが少なくなった結果、人の心の動きを察知して 会話をするということが少なくなったのが信頼を築けなくなった原因ではないでしょうか。
はっきりした理由もない、人の無意識の中に生まれてきた信頼も、失われるのは一瞬のうちです。 無意識の中にある感情は、理屈で説明できることではありません。 ですから、信頼は失われたら回復するのは容易ではないのです。 信頼は論理的な理由があって生まれてくるのではないのですから、どんなに説得されても信頼は簡単には回復しないのです。 沢田内科医院では、このように大切な信頼というものをずっと失わずに医療を続けて行きたいものです。
第43号より