平成17年4月から個人情報保護法が施行され、特に医療機関は敏感になっています。 外来の患者さんを呼ぶ時に、名前ではなく、番号で呼んだり、 病室の名前札をはずしてしまったところもあるようです。 しかし、番号で呼ぶことで患者さんの顔を知らない場合には、間違って診察を進めてしまうことがあるでしょう。 病室では、名前を確認する手段が少なくなることで、間違いが起こる可能性があります。 個人情報を保護することも大事ですが、医療事故の防止のためには、当然のこととして、 名前を出来るだけ使うのがいいのではないでしょうか。
私たちの医院では、外来診察で次の患者さんを呼ぶ場合には、これまで通りフルネームで呼ぶことにしています。 まず第一に大切なことは、人を間違わないことですから。 成田さん、三上さん、石岡さん、佐藤さん、斎藤さん、苗字だけでは同じ人が必ず待っています。 フルネームで呼んだ場合でも、次は自分の番かなと期待して待っている患者さんは、 苗字が同じだけで自分が呼ばれたと勘違いして入ってくることが少なくありません。
今の時期ですと、薬だけの患者さんを除いて、実人数として1日に80-100人位の患者さんを診察しています。 プライバシー保護のために、声が聞こえない所に待機してもらい、 番号で呼ばれた患者さんが本人かどうかを確かめながら行うと、 診察室の出入りに30秒から1分多くかかるのではないでしょうか。 そうなると1日合計で1時間前後の時間が余計にかかります。 個人情報保護と安全のためには必要だと言うかも知れませんが、 8時間の診察時間から、1時間が削られると、ますます時間が足りなくなってしまいます。
医院はカルテという大切な個人情報を保管しています。 朝に外来の鍵を開けると、昼休みを含めて、必ず誰かが外来受付にいて、 不審な人が入ってこないことを見守っています。 保険会社からの問い合わせは、必ず書類で行っています。 患者さんのことについての電話での問い合わせには、原則として応じていません。 遠い所に住んでいる場合などは、患者さん本人に確認してからお話しています。 患者さんが亡くなった場合などに、警察からよく問い合わせがありますが、 話の内容で確かなことが分かれば、答えています。
入学試験の季節になっても、最近は名前が発表にならないので、 誰がどこに行くのかもさっぱり分からなくなりました。 どこの学校へ行くのかと面と向かって聞くわけにも行かず、結局はよく分からなくて終わります。 社会生活は人間同士の交流のはずですけど、自分をできるだけ隠して安全な場所に置き、 相手も誰か分からずに交流する匿名社会になってしまうのでしょうか。
医療現場は、個人的な事情を考慮しながら治療方針を決定することが多く、 患者さんも言いにくいことを話しながら診療を進めて行きます。 プライバシーの尊重は当然ですが、それにしても、現在の、 行き過ぎとも言える個人情報保護を重視するやり方には疑問を感じています。
第31号より