いわゆる小泉改革が進んでいます。たくさんの分野で改革が必要と言われ、医療も例外ではありません。 医療分野では、経済を第一に考えると医療の質が落ちるというのが私の意見です。 つまり、経営を第一に考えたり、医療費を少なくする方向に行くと、いい医療は提供されなくなるということです。 新聞のようなむずかしい言葉で説明しても考えがうまく伝わらない可能性がありますし、 経済原理もよく知りませんので例を上げて具体的に書いて見たいと思います。
苦しさを訴える患者さんを前にして、自分が生活していく経済的なこと、 看護婦などの従業員の給料の支払を考えながら診察しなければならないようであれば、落ち着いて診療は出来ないでしょう。 開業医院は一種の企業ですから、医療器械、薬、材料などを仕入れ、それに対して支払が発生します。 開業した時の借金の支払いも毎月あります。 これらのことをいつも考えながら患者さんを診察していては、良い医療を提供することは出来ません。 一緒に働いている看護婦達にしてみても同じだと思います。 医院が給料を払えるかどうかを心配しながら、患者さんの看護をしている状況では、 どんな医療サービスが提供出来るかは容易に想像がつきます。
小泉改革の一つとして、株式会社が医療分野に参入できるというのがあります。 株式会社の基本は、資本を提供する株主に対して配当を多くすることです。 つまり、経済を第一に考えるということです。医療といえども経済的な裏づけがなければ成り立たないことは当然です。 しかし、医療機関が儲けを第一に考えて医療を行うと、医療内容は経営を考えたものになるのは自然の成り行きです。 つまり、患者さんに最もいいと思われる医療を提供することが出来なくなるということです。 実際問題として、不必要な薬を出して患者さんが通院せざるを得なくしたり、 不必要な検査をして収入を多くしようとするかも知れません。 ある種の保険制度によっては、医療費を少なくするために、必要な医療を行わないことが起こるかもしれません。
患者さんが来てくれなければ、どんなりっぱな理念を持って開業したとしても、 経営的に成り立たないばかりでなく、それを実現できる場さえ持つことは出来ません。 患者さんが来てくれることが、私達開業医が成り立つ基本です。 今の沢田内科医院では、たくさんの患者さんが利用してくれますので、私が忙しく体を動かしている限り、 経営的に困ることはありません。 医院の経営や自分の生活を考えずに医療ができる今の状況を私は本当に幸せに思っています。
私は医師として、自分と家族の生活、従業員の生活のことを考えずに患者さんの診療を行いたいのです。 株式会社が病院の経営に参入して、医療を経済に合わせるようになると、医療の質を落とすことになります。
第22号より