人間ドックや検診では「大腸がん」の項目は「便潜血検査」で行われるのが普通です。 この検査が陽性であれば大腸内視鏡検査やX線検査による精密検査を勧められます。 大腸がんやポリープがあると、便の中に目には見えない少量の血液が混じっていることが 多いので、「便潜血検査」が行われるのです。
以前の「便潜血検査」は、豚肉や牛肉などに含まれる動物の血液が混じっていると陽性に 出ますので、「ヒトの血液だけに反応する免疫学的便潜血検査」が考案されました。 ヒトの肉を食べることはありませんから、便潜血検査が陽性であれば、自分の体から血液 が出ているということになります。 これを世界で初めて開発したのは、弘前大学の先生なのです。
弘前大学生涯学習教育研究センター斎藤博助教授がその人です。斎藤博先生は私と同じ年 で、弘大第1内科では机を並べた仲です。この業績により、これまで各種の賞を受賞して いますが、昨年は日本対がん協会の特別賞である「朝日ががん大賞」を受賞しました。 非常におめでたいことなので、私と弘前市立病院の松川院長が有志に呼びかけ、昨年11月 に祝賀会を開いてお祝いをしました。写真はその時の1枚です。
この「便潜血検査」による大腸がん検診が広く行われるようになった結果、最近は年間500 万人をこえる受診者から8,000人以上の大腸がん患者が見つかっています。 私の医院に登録された患者さんの数は、開業7年あまりでやっと10,000人です。 私は限られた数の患者さんと直接向き合って診療していますが、このようなすばらしい検 査方法を開発した斎藤博先生は間接的に非常にたくさんの患者さんを救っていることにな ります。
なお、大腸内視鏡検査も、弘前大学第1内科が中心になって開発したものです。 大腸ポリープを内視鏡を使って切除したのも弘前大学が世界で初めてでした。 皆さんが何気なく恩恵を受けている便潜血検査と大腸内視鏡検査が弘前大学で開発された ものであることを私は誇りに思います。
便潜血検査は、集団検診では多数の人たちに大腸内視鏡検査やX線検査を行うのは不可能で すので、大腸の病気がありそうな人たちを拾い上げて検査を行おうと開発されたものです。 この検査で異常がないので病気がないというわけではありませんので、お腹が痛いなど症 状がある人は、便潜血検査で異常がなくても大腸の検査は必要です。
第13号より