現在、弘前市とその周辺で麻疹(はしか)が流行しています。 9月末に大人の麻疹の患者さんが診断され、10月になって急速に数が増えました。 弘前市医師会では、大人の麻疹から子ども達への広がりを心配していましたが、その心配が現実のものになってしまいました。 さらに、この麻疹ウイルスが、まだ予防接種をしていない1歳未満の乳幼児に広がらないように対策をとる必要があります。
麻疹は乳幼児に多発する病気ですが、最近の流行は20歳前後から30歳にかけて多いのが特徴です。 乳幼児で発症した場合は、予防接種をしていなかったためと思われますが、 大人の場合は、ワクチンを受けなかった場合に加え、ワクチンを接種したにもかかわらず発症したケースが少なくありません。 これは、ワクチン接種による免疫が持続せず、麻疹への抵抗力が低下したことが原因と考えられています。
麻疹ワクチンの接種による抗体陽転率は95%以上で、接種を受けた子どものほとんどが抗体を獲得しますが、 数%は抗体ができません。以前は、麻疹にかかったりワクチンを接種した場合は、免疫が一生続くものと考えられていました。 しかし、感染防御レベルの抗体が持続されるためには、麻疹ウイルスと繰り返し接触する必要があることが分かってきました。 免疫が持続するためには、麻疹患者と接触する機会が必要だということです。 近年では、ワクチンの効果により麻疹の流行が少なくなり、麻疹ウイルスに接触する機会が少なくなってきました。 その結果、免疫が低下して麻疹にかかってしまう例が数多く報告されるようになったのです。
今回の麻疹の状況を調べてみても、ワクチンを接種したことがある子どもが大部分です。 ワクチンを接種した子どもたちは、高熱は少なく、発疹も少なく、合併症もなく経過することがほとんどです。 これに対し、ワクチンを接種していなかった子どもたちは、高熱が続き、発疹も全身におよび、 食欲不振などの全身症状が強く出ています。 麻疹は、肺炎、脳炎、中耳炎を合併することがあり、想像以上に重い病気です。
日本における麻疹患者数は、近年のワクチン接種キャンペーンが効を奏して年々減少してきました。 しかし、確かな数値は不明ですが、まだ、かなりの発症数があると考えられています。 少なくなったとはいえ、諸外国と比べて非常に多く、アメリカでは100人を超えることはなく、 それも、ほとんどが外国からの輸入感染です。
天然痘とポリオは排除されたことになっています。麻疹も日本からの排除が可能です。 インフルエンザウイルスは鳥や豚などに感染しますが、これら3つのウイルスの特徴は「人にしか感染しない」ことです。 ですから、麻疹ワクチンを徹底することで、日本から麻疹ウイルスを排除できるのです。 アメリカやヨーロッパの国々ではすでに麻疹の排除を達成したのです。
日本でも、遅ればせながら麻疹排除の目標を2012年としました。 これまでは麻疹ワクチンは1歳を過ぎてから1回だけの接種でしたが、 平成18年4月から、1歳時と小学校入学前の2回になりました。
① | 1回目の接種で抗体を作れなかった子(数%です)に2回目の接種で免疫を作らせる。 |
② | 2回接種することで、時間ともに低下する免疫力を高める。 |
③ | 1歳時に接種できなかった子に入学前に接種の機会を作ってあげる。 |
この対策は、これら3つの意味があります。
さらに、平成20年4月からは、中学校1年生と高校3年に相当する年齢の人に麻疹・風疹(MR)ワクチンを 接種することになっています。 これらの措置を5年間にわたって行うことで、現在高校2年生の人たちが23歳になった時点で、 23歳以下の人たちはワクチンを2回受けることになります。 麻疹ウイルスを排除するためには、ワクチン接種率が95%以上になることが必要と言われています。 どのような方法でワクチン接種率を高めるのか、まだ詰めは甘いようです。
麻疹治療に特効薬はありませんので、症状を抑える治療となります。ですから予防が重要です。 それも、ワクチン接種がもっとも重要です。これしかないと言って差し支えありません。
① | 1歳の誕生日を迎えたら、すぐに麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)を受けましょう。 |
② | 入学前の2回目の接種は必ず受けましょう。 |
③ | ①や②の定期接種以外でも、麻疹にかかったことがない人で麻疹ワクチンを受けてない場合は、任意でワクチン接種を受けましょう。 |
④ | ワクチンを受けていても、免疫があるかどうか心配な方は、医師に麻疹抗体の有無を調べてもらいましょう。その結果、抗体価が低い場合には任意でワクチンを受けることができます。 |
麻疹の流行が起こらないように、一人ひとりがこれらを実行しましょう。
また、一旦、麻疹が流行した場合は、広がりを防ぐことが重要です。子どもの場合の対策として、
① | 学校は休む。 |
② | 医療機関へ直接受診しないで、電話で受診方法を相談する。 |
③ | 外出を控え、他の子どもと接触をしないようにする。 |
これらを徹底しましょう。
これも重要なことですが、乳児の麻疹予防対策も必要です。 母親からもらった免疫がなくなる6ヶ月から1年までの乳児は、ワクチンを接種していませんから、麻疹にかかり易い時期です。 若い人は免疫が低下している可能性があり、このような母親から生まれた乳児の抗体も少ないことになります。 1歳未満の乳児と1歳以上でワクチンを受けていない幼児は麻疹にかかり易いのです。 とにかく、麻疹が流行している時期には、乳幼児を人混みに連れ出さないことです。
第42号より