受診した患者さんの中には、検査で全てが分かるように思っている方が少なくありません。 しかし、日常の診療では、患者さんの話(病歴と呼んでいます)と診察所見で、大部分の診断を下しているのです。 特に患者さんの話が最も重要で、検査は診断が正しいかどうかを確かめるために行っていることが大部分で、 検査で診断していることは少ないのです。 ( 医院の検査機器はこちら)
患者さんが具合が悪くて受診した時に、私たちが、どのようなことを考えながら病気の診断をしているかを少し書いてみます。 これは私の方針ですので、全ての医師がこのようにしているわけではないことをお断りしておきます。 まず、私たちは、①患者さんの話(病歴と言います)を聞きながら、最も考えられる病気を頭に浮かべます。 そして、②同じような症状を示す病気を何個か考えています。そして、これは非常に大事なことですが、 ③見逃しては取り返しのつかない病気を必ず思い浮かべます。
例えば、頭が痛くて受診した場合を考えてみます。まず、私たちは患者さんに困っていることを自由に話してもらいます。 ただ、止め処もなく続く方もいらっしゃいますので、途中でさえぎることもありますが・・・・。 どの辺が痛いのか、急に始まったものか、ズキズキする痛みか、痛みの程度は強くなってきたか、吐き気を伴うか、 視力に変わりがないか、何かすると痛みは軽くなるか、今までこのような痛みを経験したことがあるか、等々。 自由に話してもらった話の中にこれらが全て含まれていれば完璧です。 患者さんの話を聞きながら私の頭の中には、例えば片頭痛が浮かんできます。普通は患者さんの話だけでは不十分ですので、 他に筋収縮性頭痛、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などを思い浮かべながら、私から質問して補います。 順番を待っていた位ですので、くも膜下出血はないと判断しますが、これは見逃してはいけない病気ですので 必ず否定しなければいけません。
これらのことから、診断を確定して治療を始めるか、すぐ出来る検査をするか、CTやMRIをお願いするかを決めます。 そして、重要なことですが、患者さん自身はどのような病気だと思っているのか、何を心配して受診したのかを聞きます。 兄弟がくも膜下出血を起こしたことがあるので、これを心配して受診したのであれば、患者さんの不安を取り除くために MRIをお願いすることもあります。
皆さんが来られると、私の医院ではまず看護婦が話を聞きます。 その後場所を移して、私が改めて話を聞いて診察します。 ここで私は、看護婦が聞いたことでも改めて聞き直すことが少なくありません。 患者さんによっては、すでに話したことをまた聞くので、くどいと思う方もいるようです。 しかし、人の話は、繰り返し聞いていると、それまで気付かなかったことを思い出したり、だんだん確かになっていきます。 病気を診断する時には患者さんの話が一番大事なことですので、くどいと思うかもしれませんが、 繰り返し聞いて確かにしているのです。 検査でしか分からない病気もたくさんありますが、大部分の病気は、検査よりも病歴の方が正しい姿を物語っていることが 多いことを強調したいです。
第15号より