胃癌の原因の大部分がヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染であることが分かっています。 また、ピロリ菌感染の期間が長いと胃癌になりやすい萎縮性胃炎の程度が強くなります。 そこでピロリ菌感染の有無を調べる検査(血液中のピロリ抗体を測定)と萎縮性胃炎の程度を調べる検査(血液中のペプシノーゲンを測定)を 組み合わせて胃癌になりやすいかどうかの危険度(リスク)を分類することができます。これが胃がんリスク(ABC)検診です。 強調しておきたいのは、この胃がんリスク(ABC)検診は、 バリウム検査や胃内視鏡検査のような、直接胃癌を見つける検診ではないということです。
ペプシノーゲンは胃粘膜から分泌されて、食べ物の中にあるたんぱく質をアミノ酸に変える消化酵素です。 ピロリ菌により胃粘膜が萎縮して薄くなるとペプシノーゲンが分泌されなくなります。 ですから、ペプシノーゲンの量を測ることで胃粘膜の萎縮の程度を知ることができるのです。
A群:ピロリ菌検査、ペプシノーゲン検査ともに陰性。
健康的な胃粘膜です。胃癌になる危険性は低いと考えられますが、全くないわけではありません。 5年に1度程度の胃内視鏡検査を勧めます。
B群:ピロリ菌検査陽性でペプシノーゲン検査陰性。
胃癌が発生する可能性があります。2~3年ごとの胃内視鏡検査を勧めます。 また、できるだけピロリ菌感染を治療する除菌治療を受けることを勧めます。
C群:ピロリ菌検査、ペプシノーゲン検査ともに陽性。
萎縮性胃炎であり、胃癌になりやすいタイプです。1~2年ごとの定期的な内視鏡検査が必要です。 胃癌は、早期発見すれば内視鏡での治療が可能です。ピロリ菌がいる方は除菌治療を受けることを勧めます。
D群:ペプシノーゲン検査陽性でピロリ菌検査陰性。
萎縮性胃炎になっていても、ピロリ菌はいません。胃癌になりやすい最も危険なタイプです。 毎年、内視鏡検査による経過観察が必要です。
最近はピロリ菌の除菌治療を受けた人が増えています。この場合はABC検診の判定が変化します。 除菌に成功した人は胃癌になる確率は低くなりますが胃癌発生の危険性は残ります。 除菌した人の判定は除菌前のタイプに準じて行ったり、E群とするなど 特別な判断が必要ですので、医療機関での経過観察を継続しなければなりません。
繰り返しますが胃がんリスク(ABC)検診は直接胃癌を見つける検診ではありません。 胃癌になるリスクを判定し危険性のある人が胃内視鏡検査を受ける2段構えの検診です。 A群は胃癌にならないというのではありませんので、最初は胃内視鏡検査を受けることを勧めます。 B、C、D群の方は必ず胃内視鏡検査による精密検査を受ける必要があります。
私は、弘前市に対して、ABCリスク検診を提案しています。 胃がん検診の受診者数は頭打ちであること、ピロリ菌が胃癌の原因の大きな部分を占めていること、そして、それに対処する方法があるからです。 また、バリウムによるX線検査は消化器病専門医を目指す医師の研修項目には入っていません。 ですから、将来は、バリウムによる胃がん検診は成り立たないのではないかと思います。これにも対応していかなければなりません。 なお、この検診は40歳から75歳まで5歳きざみの節目検診として実施することを想定しています。
第76号より