冬だけでなく真夏でも風邪の患者さんは毎日少なくとも一人は受診します。 中には、『風邪の注射をしてほしい』という患者さんがいます。 風邪はウイルスが原因ですので、インフルエンザや帯状疱疹など一部のウイルスには効く薬がありますが、 いわゆる風邪に効く薬は今のところありません。 でも、皆さんは風邪をひくと、『風邪薬』をもらいます。 風邪のウイルスをやっつける薬はないわけですから、『風邪薬』と言われているのは、それでは何なのでしょうか。 『風邪薬』はウイルスそのものに効く薬ではなく、咳、のどの痛み、鼻水、熱など風邪の時に見られる症状を軽くする薬を 混ぜ合わせたものと私は理解しています。
風邪の時に、私は筋肉注射はしませんが、点滴をすることがあります。 吐き気があったり食欲がなくて食べられない時、熱があって体のだるさが強い時、などです。 「先生、気のせいだけでもいいから点滴して下さい」という時も、患者さんに負けて点滴をしてしまいます。 また、「3日後に出張なので、早く治したいから」という時も、ついつい点滴をしてしまいます。 風邪のウイルスに効く薬はありませんので、点滴をしても風邪が早くよくなるわけではありません。 でも、1時間ほどかけて200ml程度の点滴を終わると、患者さんは体調がよくなることが少なくありません。 脱水状態がよくなったのかも知れません。1時間ベッドで休んだためかも知れません。 治療してもらったという気のせいかも知れません。 いずれにせよ、医学的に考えて風邪に効く点滴はないのですが、受診した時よりも体調がよくなって帰ってもらえれば、 それでいいと私は思っています。
繰り返しますが、私は風邪に対して筋肉注射や点滴は原則としてしません。 特に、食べられて熱もなく、全身の症状がない場合には注射はしません。 しかし、だるさが強かったり、食べられそうもない場合には、患者さんが要求しなくても点滴をして帰ってもらっています。
咳が強くて眠れない、頭が痛い、鼻水が多くて仕事に差し支える、などの症状は飲み薬の方が効きます。 熱があった不快な時も飲み薬を使います。熱を下げるために注射は使いません。坐薬は時々使います。 また、細菌感染がない風邪と診断した場合には、当然のことながら抗生物質は出しません。 症状が軽い場合には、「今回は、気合で治しましょう」と薬を出さない場合もあります。
第16号より