2020年(令和2年)4月、前院長美彦より沢田内科医院を継承して開業してから3年が経とうとしています。1000日以上にわたりひたすらコロナと戦い続けてきたことになります。コロナワクチン接種も始まり、午後の休診時間も集団接種の時間にあてて対応しました。また、休日も夜間もできる限り発熱外来対応もしました。
数えてみたら2022年(令和4年)だけでも約8800件の発熱外来診療をしていました。3年間となると10000件は超えているはずです。もちろん当院だけが頑張ったわけではありませんが、それでもコロナに対して市内の一開業医としてやれることはやったのではないかと思っています。ボロボロになりながらついてきてくれた職員達にはとても感謝しています。
コロナが開業医の日常に残した傷跡はたくさんあります。第一はやはり職員の疲弊です。この間、体調を崩して辞めざるを得なかった職員が数名いました。患者さんを治療する職場で働いているのに患者さんをつくってしまったことは医師としてとても心苦しいことでした。辞めないまでも疲労蓄積により心に余裕がなくなってしまって、職員間の人間関係がぎくしゃくしたり、ミスが増えたりと弊害もたくさんありました。患者さんから窓口や電話での対応でお叱りを受けたことも一度や二度ではありません。疲れがたまって、笑顔が消えて、殺伐としてしまった医院を再生させていかなくてはなりません。
そして2月下旬には私自身もストレスからか体調を崩してしまいました。あるとき患者さんに検査結果を説明しているときにひどいめまいと吐き気、頭痛が出現し目を開けていられなくなってしまいました。急遽、出身医局である弘前大学医学部附属病院の消化器内科に依頼して代診の先生にきてもらいました。以前私がコロナになって診療できなくなったときにもきてくれた笹田先生(研修医時代にも1か月間地域医療研修として勉強にきていた先生です)、そして当院での診療ははじめての立田先生、舘田先生には本当に助けてもらいました。
3日間休ませていただいている間に、鳴海病院やのだ眼科、あきた耳鼻科を受診し原因を調べることができました。大きな病院と違って、代わりがいなければ多方面に迷惑がかかってしまいます。倒れないように体調管理をしていくのが一番ですが、倒れてしまったときにどうやっていくかも常に考えておかなくてはいけません。
先日2022年の出生数が80万人を割り込み、これまでで一番少なかったと報道がありました。そして青森県の人口も毎年1万人ずつ減ってきています。働き手がどんどん少なくなり、仕事だけが今のまま残ると相対的に必ず忙しくなります。それを踏まえて「やれること」「やれないこと」「やらなくてはならないこと」「うちでやらなくても他でもできること」「当院でなければできないこと」を吟味し、職員の労働環境も考慮しながら今後どうやって医院を運営していかなくてはならないのかを考えました。
今回のコロナ対応では次々に新しい変異ウイルスが出現し、短期間で大流行を繰り返すという形が繰り広げられたので、とにかく後手後手で対応せざるを得ない状況が3年間も続きました。そのため、とにかく無理を押して進めるというのが常態化し、どんどんつらくなってきたという背景があります。特に保健所にかかった負荷は相当なものだったと思われ、「もうこれ以上、無理なものは無理」と言い出せないつらさがあったと思います。
危機の時に踏ん張らなくてはならないのは医療機関の宿命でもありますが、それでも私たちにも生活がありますし、時間的にも体力的にも精神的にも限界があります。長期にわたり現在の医療の質を維持していくためには「やめることを決める」必要があると判断しました。
自分が患者の立場になったときに、夜間診療で疲弊して判断力が落ちた外科医には手術をして欲しくないですし、日常業務に追われて最新の医療の勉強もままならず、不機嫌な対応をするような内科医にも診察して欲しくありません。困って医院に電話をしているのにもかかわらず、冷たい対応をされるような医院にもかかりたくありません。コロナもいったん落ち着き、新年度が始まるタイミングでしたので、その第1弾として「火曜午後の休診」と「大腸ポリープ切除をやめる」ことに決めました。
沢田内科の歴史を紐解きますと診療時間の変更に関しては、平成20年4月に金曜の午後を休診にしたということがありました。2007年9月のニュースレターに詳しい経緯が書いてありましたが、おおよそ今の私が考えているのと同じような理由で時間を作る必要があったようです。当時もやはり患者さんにとって医院が開いている時間が短くなるデメリットについて触れられていました。
職員それぞれがレベルアップするための勉強の時間、看護師を超音波検査士として養成するための時間、充実した病歴要約(通院患者さんのこれまでの病気の経過や処方内容を1枚の紙にまとめたもの)を作る時間、今まで夜遅くまで残業してやっていた事務処理をする時間。そして、何より職員の心と健康を取り戻すための時間。
沢田内科で行われる医療の質を底上げするためには時間が必要でした。そのため休診の時間を増やすことにしました。
これまで大腸ポリープは6~7mm以上の大きいものは癌化するおそれがあるので取る。小さいものは経過観察するという方針でした。それが近年変わりつつあります。最近は小さいものも含め見つけたものはすべてとってしまう「クリーンコロン」という治療戦略が出てきています。確かにみつけしだいすべて取ってしまえば、その後の人生で大腸癌になる確率も大腸内視鏡検査を行う頻度も少なくなります。先輩である千葉胃腸科の千葉裕樹先生や弘前総合医療センターの先生方がそういった治療を積極的に行っています。当院では切除を行うには時間的な制約が大きく(治療に入ってしまうと他の患者さんを待たせてしまう)、また切除した後の出血に対する対応が不十分(夜間や時間外は対応できる看護師が少ない)になってしまうおそれがありました。そのため今後は検査だけに集中し、切除は弘前総合医療センターに依頼する方針としました。
第133号より