最近は、何かというとマニュアルです。何か事故が起こると、マニュアルがなかったとか、マニュアル通りに実施していなかったなどと言われます。確かにマニュアルがあるとうまく機能することが多いことでしょう。しかし、マニュアルがあるとうまく行かないことがたくさんあります。そこで、沢田内科医院では、規則で決められたマニュアルはありますが、仕事上のマニュアルはできるだけ作らないことにしています。
私は、マニュアルを作った時点でその組織は退化が始まると考えています。どんどん変えていかないと進歩しません。しかし、大体はマニュアルを作るとそこで安心してしまい、思考停止に陥ってしまいます。そして、それに気付いていないことが多いものです。マニュアルは、多くの人を対象としたいつも起こりうることには向いていますが、複雑なことがらがそれぞれ変化した時にどう迅速に対処するのか、その判断・決定のプロセスをどうするかには向いていません。つまり、いわゆる“想定外”の危機管理に対しては、マニュアルは向いていません。
医療現場で大事なことは、決められたことを手順に従って仕事をするのではなく、さまざまな状況下で臨機応変に対応する柔軟性を持ち、優先順位を的確に判断できることです。沢田内科医院のような小さな医院でも、患者さんの状況は常に変化しますので、ワンパターンで対応できないことがしばしば起こります。また、何人もの患者さんに同時に平行して対処していることが多いので、決まった手順で対応することはほとんど不可能です。
沢田内科医院では、午前中に超音波検査、胃内視鏡検査、大腸の検査などを行っています。この検査順序が問題です。予約していても、必ずしもその時間に来院しているとは限りません。いかに患者さんの待ち時間を短くするか、できるだけ早く検査を終えることができるか、よく考えて検査順序を決める必要があります。時々、職員に対して、「次は、何をする?」とチェックしてみます。全体を考えずに答えた場合は、「ちゃんと頭を使え!!」となります。内容を考えずに機械的に予約して、その順にやっているだけだからです。
現在は新型インフルエンザが広がっています。新型ですので、誰も遭遇したことはありません。当然、マニュアルはうまく機能しません。しかし、新型とはいえ、発症初期の状況を把握し、ウイルスそのものの性質を理解して対処すれば大きな間違いは起こりません。何事も、通常の仕事の内容をきちんと理解して、これまで出会ったことがない事態に対しても、通常の延長として状況を判断できる能力を養うことが重要です。
第52号より