■個人的な経験がいつも正しいと思っていませんか?
ある薬を飲んで病気が良くなると薬を飲んだから良くなったと解釈します。しかし、結核の薬がなかった時のことを考えてみてください。多数の患者さんが亡くなりましたが、結核の薬を使わなくても良くなった患者さんもたくさんいます。急性肺炎の治療で抗生物質を点滴静注しても、良くなる人と良くならない人があります。
給食で出す食事でもそうです。ある人は非常に美味しいというのに、ある人はまずいということがあります。個人的な体験を一般的なことだと信じるところに誤りがありますし、逆に、一般的に認められていることが全ての個人に当てはまるわけでもありません。
■健康食品への私の考え
健康食品に関しては、薬品のように多数の人たちに使用した効果についての資料がありません。ですから、患者さんが健康食品を持ってきて、私に判断を求めても、私にはそれを判断する「根拠」がないのです。何か病気に効くという場合でも、ほとんどが口コミで、パンフレットに書いてある場合は個人的な「体験記」であり、科学的な根拠は示されていません。もちろん、薬品ではありませんので、薬事法に違反することになり、その効能は書くことができません。「キノコから抽出した物質」、「ミツバチが産出する物質」、「カニから抽出した物質」などは、その効果を確かめる術がありません。これらに対して、「私の経験と勘」で判断すると、患者さんは「沢田内科医院の先生がいいと言った」と解釈しますので、私は、「自分が食べたり飲んだりして、体具合がいいと思ったら続けていいのではないでしょうか。あまり高価なものであれば、薦めません。」と答えることにしています。
■病気を持つ人に薦めると困る人がいます
「特定保健用食品」、「栄養機能食品」なども含め、「健康食品」で元気になればそれはそれでいいことです。しかし、自分には効いたからとそれを病気の人に薦めると、その人は判断に苦しみます。友達や親戚の人がせっかく心配して薦めてくれるのを無視するわけにもいきませんし、それが自分にとっていいものかどうかも分かりません。どのように対処したらいいか、戸惑うことが多いようです。ですから、外来に受診した時に私の意見を求めるのです。個人的な体験が他の人にも同じように効果を表すとは限りません。自分では好意でやっていると思っても、個人的な経験を他人に薦めるのはどうかと私は思います。
第9号より