内視鏡検査を行う場合に気をつけなければならないことの一つに、ウイルス感染があります。 つまり、あるウイルスに感染した患者さんに使用した内視鏡の消毒が不十分であれば、次に検査を 受けた患者さんが感染してしまうことです。内視鏡検査で感染が広がることは非常に少ないのです が、肝炎ウイルス、結核菌、エイズウイルスなどが問題となります。また、潰瘍の再発に関係する ヘリコバクター・ピロリも感染することが知られています。
内視鏡検査の前に、これらのウイルスに感染していないかをチェックしてから内視鏡検査を行って いる病院もあります。このような病院では、内視鏡検査のために受診しても、ウイルス感染がない かの検査を先に行いますので、日を改めて内視鏡検査を行うことになります。これでは私が目標と する「結論を早く出す」方針に合いません。私たちの医院では、食事をしてこなければその日に内 視鏡検査を行っているからです。
これまでは、ウイルス等に感染していないか患者さん側をチェックすることに注意が向けられてい ましたが、私は内視鏡検査を行う患者さん全員にウイルス検査をすることは現実的ではなく、また、 この対策自体が不十分だと考えています。血液検査自体も100%正しいという確証もありません。 ヘリコバクター・ピロリは潰瘍の患者さんであれば検査をしていなくても感染があると考えなけれ ばなりません。結核菌にも対処できていません。ですから、患者さん側の感染の有無で対応するこ と自体に無理があるのです。どんな感染症の患者さんが受診してもそれに対処できる体制を作るこ とが最も重要なことなのです。
従来の消毒剤は消毒に1時間近くかかりますので、多数の患者さんの検査には対応できませんでした。 このために患者さんに感染症があれば、順番を変えてその日の最後に検査をしたり、別の内視鏡を 使うことで対応していました。最近、肝炎ウイルス、エイズウイルス、結核菌が短時間で死滅する 消毒剤が開発されました。この新しい消毒剤を使うと、短時間で消毒を完了することができますの で、受診した当日に感染症の有無で検査の順番を変えることなく検査を行うことができるようにな りました。
私たちの医院では、昨年からこの消毒剤を使用しています。内視鏡検査自体はスムーズになったの ですが、消毒剤の取り扱いに注意が必要なため看護婦の仕事が増えたことが欠点です。他にも優れ た消毒剤がありますし、検査機器や消毒方法は年々進歩しています。今後も皆さんが安心して検査 を受けられるように改良して行きます。
第13号より