民主党は選挙公約として医療費を増やすと約束しました。その財源は税金の無駄遣いをなくすことと予算配分の変更で確保できると主張しました。そして、政権を握った民主党は、マニュフェストに書いた政策を実行するために「事業仕分け」ということを行い、予算の組み換えと無駄を減らして財源を確保しようとしました。しかし、年度内成立が確定した来年度予算編成を通じて、これが実行不可能であることが明らかになりました。無駄を排除しても、医療費を増やすことはできなかったのです。
医療崩壊を防ぐためには医療費を上げることが必要で、誰かが医療費を負担しなければなりません。その手段は、1)税金を上げる、2)健康保険料を上げる、3)自己負担を増やす、この3つしかありません。そして、これら全ての可能性を検討しなければなりません。医療制度が破綻して困るのは国民です。何らかの形で国民負担を増やさざるを得ませんが、それを決めるのも国民です。最近は、世論の動向が政策を左右することが多くなりましたので、議員を選ぶ選挙の時だけでなく、普段から考えておかなければならないことです。
高齢化の進展によって、社会保障費は毎年1兆円ずつ自然に膨らむのだそうです。この予算さえ確保が難しい状態で、民主党政権は年5.3兆円必要な子ども手当てを11年度から満額実施するとのことです。新たな財源なしに、これらをどのように実施するのだろうか。基礎年金の国庫負担は現在3分の1ですが、11年度からは2分の1に引き上げられ、この財源も2.3兆円だそうです。ちなみに、国民医療費は34兆円です。小泉政権による社会保障費削減路線も厳しいものでしたが、今の財源だけでは、これまで以上に厳しい状況になりそうです。
新聞の経済欄を見ると、ここ何年かでリストラをした会社が黒字転換しています。黒字になると税収が増えますので喜ばしいことです。しかし、これも、リストラをして残った人と組織が黒字になったということで、リストラをされた人を含めて考えると決して喜ばしいことではないでしょう。事業仕分けで医療費にお金が回ったとしても、無駄と判断されて取りやめになった事業に従事する人たちは路頭に迷うことになります。
「奪い合えば足りない、分け合えば余る」ということを思い出します。今ある財源を奪い合うのではなく、増税して分け合うのが現実的な選択だと思います。民主党は4年間は消費税を上げないと約束しました。しかし、このままでは医療崩壊は進んでしまいます。やはり、国民みんなが負担して、世界に誇る医療制度を守って、健康な生活が送れるようにして欲しいものです。現実的な方法としては、消費税の増税しかないと思います。
蛇足ですが、医療機関は患者さんから消費税をもらっていません。でも、医療器械や薬を買う時は医療機関は消費税を払っています。消費税は最終的に消費する人が払うのが原則ですが、薬は最終消費者ではない医療機関が消費税を払っているのです。この状況が続いて消費税が上げられると、医療機関の経営は打撃を受けますので、これは何とかしてもらいたいものです。
第56号より