新聞などを読んでいると、日本の医療は『3時間待ちの3分間診療』とよく言われます。 これは待ち時間が長くて、その割には診療は粗末だということだと思います。でも、本当に『3分間診療』は短いのでしょうか?
初めて受診される患者さんは、身長と体重を測り、これまでどんな病気をしてきたか、輸血をしたことはないか、 お酒やタバコ、女の人であれば月経に関することなどの話を聞きます。 これだけで3分は過ぎてしまいます。ですから、3分間診療というのは初診の患者さんに関することではありません。
それでは、高血圧や糖尿病といった定期的に通院をしている患者さんの診療はどうしているのでしょうか。 私の医院では実人数として月に1,400人から1,620人の患者さんを診療しています。 この中の約半分は、いわゆる慢性疾患の患者さんで、症状の変化はそれほどありません。 しかし、糖尿病であれば、月1回の診察の時は、血液と尿の検査で糖尿病そのものに変化がないかは当然ですが、 腎臓が悪くなっていないか、目の方は大丈夫か、など病気にともなう合併症が起きていないかにも気を配ります。 また、糖尿病以外の病気を起こしていないかにも注意します。 不思議なもので、通院している患者さんであれば、顔とカルテをちょっと見ると瞬間的にこれまでのことを思い出すことができるのです。 つまり、『3分間診療』ですが、これまでの長い経過の中の『3分間』なのです。 受診のたびに担当医が変わり、全く診療したことがない患者さんの診察時間が『3分間』であれば、これは非常に短いものでしょう。 これに対して、どのような経過で、どのような合併症を起こし、前回までの状況はどうであったのか、 これからどのようにしなければならないのか、目の前にいる患者さんに関しては、開業医の頭の中(大部分はカルテの中ですが)には これらのことがしまいこんであるのです。その上での『3分間』ですので、決して短い時間ではないと私は思っています。
私は高血圧の患者さんでも、自分では血圧を測っていません。 3分間しかありませんので、器械でできること、看護婦でできることは私自身がやらないようにしているからです。 そして、直接診察する時間とお話をする時間をできるだけ長くしているのです。 このような状況を一緒にして『3分間診療』として論じていることに関して、私は開業医として納得できません。 皆さんはどう思われますか?
アメリカはお金次第でどのような医療が受けられるかが決まるようです。 お金がないと受診すること自体が出来ないことがあるようです。 イギリスは診療を予約して待っている間に死んでしまう、と言われています。 先日、イギリスでの順番待ちが長過ぎるため、患者さんをフランスに連れて行き、 そこで診療を受けさせていることがテレビで放送されていました。 メーリングリストでの話でしたが、イタリアで子どもの具合が悪いので診察の予約をしたら、 2週間後と言われ憤慨していた人がいました。 これに対して、イタリアの事情をよく知る医師が、「良かったですね、たった2週間待つだけで診てもらえて」と書いていました。 これに比べて、いつでも、誰でも同じ医療を受けられる日本の3時間待ちの3分間診療は世界の奇跡とも言われています。
第16号より