先日、東京大学で起きた医療事故が報道されました。 『研修医』が操作ミスをしたために、誤って血管内に空気を混入させてしまったという内容でした。 これに対して、ある医師がコメントしていました。 『研修医はあくまでも学ぶ者であるという考えが、研修医本人にも、ベテランの医師たちにも欠けていたのではないか。 医師不足の状況下で、教育と治療の線引きがあいまいなまま、研修医が手術に参加しているところに原因の一つがある。』
これを単純に解釈すると、研修医は臨床実地研修ができないことになります。 実際に治療に参加しないで、医師はどの段階で治療手技を身につけるのでしょうか。 研修医が実際に手術などに参加することにより、基本的な診療技術が身につくのです。 看護婦の点滴技術なども含め、すべての医療行為は医療者が不断の訓練と失敗を積み重ねた結果得たものです。 一見簡単に見える内視鏡検査も、検査中の予期せぬ出来事や小さな失敗を積み重ね、何度も反省を繰り返した結果の技術なのです。
現在の日本のシステムでは、医学部を卒業してから本格的な臨床研修が始まりますが、 患者さんの負担が少ない基本的診療技術などの習得は、医学部の学生時代に身につけられるように、 臨床研修の内容を前倒しして教える方がいいと私は考えています。 研修は多かれ少なかれ患者さんの犠牲の上に成り立っています。 しかし、この犠牲で立派な医師が育つのです。医師は患者さんによって育てられるのです。 そして、私たちの医療がレベルアップするのです。臨床研修は新人医師個人のためなのではありません。 患者さんのためなのです。当然ですが、臨床研修を行う新人医師は、医師として患者さんの役に立たなければならない義務があります。
一般に、臨床研修制度がしっかりしている病院は、病院全体の診療体制がしっかりしています。 研修制度そのものが、研修医の研修だけでなく、教える側の指導医の研修にもなっているからではないかと思います。 青森県にも研修医がたくさんいて、病院が活気づき医療レベルが向上することを期待したいものです。
第18号より