現在、わが国では、年間約3万5千人が乳がんを発症し、約1万人が死亡しています。 欧米では60歳代が一番多いのですが、わが国の発症のピークは45~49歳となっています。 特に65歳未満の比較的若い世代では女性のがん死亡の第1位となっています。 わが国では、胃がんが多いのは皆さんご存知のことと思いますが、女性に関しては、 亡くなる人の数は胃がんと乳がんがほとんど同じになりました。 女性の一生を通じて見た場合には、30人に1人が乳がんに罹ることになります。
乳がんの治療法は、かつては外科手術による乳房切除術が標準的な治療法でしたが、 近年では、乳がんを早期に発見し、乳房の部分的な切除や抗がん剤・ホルモン剤による薬物療法、 放射線療法などによる集学的な治療により、生存率が向上するとともに、 できる限りQOL(生活の質)を維持する方向が重視されて、診断・治療技術が進歩してきています。
乳がんは、しこり(腫瘤)の自覚によって発見されることが多いことから、 唯一自分で検査ができるがんとして自己触診が推奨されてきました。 しかし、しこりが触れるような乳がんは、他の臓器への転移がすでに起こっている可能性が高いと考えられています。 ですから、乳房の温存を目指す観点からも、しこりが触れる前の自覚症状のない段階で発見されるようにすることが重要です。
2002年度に市町村が実施した乳がん検診の受診者は、約330万、受診率12.4%となっており、受診率は依然として低い状況です。 乳がん検診を受けない理由として、自分には関係ないと思っている女性が多いと言われており、 今後、検診や治療について普及啓発や教育が必要だと言われています。 そこで私も少しでも役に立てないものかと、このような文を書いているわけです。
これまで、わが国では、目で乳房の形を見る視診、しこりがないか触って診断する触診、 この視触診による乳がん検診が行われてきました。 しかし、現在のところ、視触診による検診では乳がんの死亡率減少効果がないと結論されています。 つまり、これまでの検診では、検診で乳がんを発見しても寿命は長くはならないということです。
それでは、これまで乳がん検診を受けてきた人たちは、むだなことをしてきたのでしょうか? そうではありません。検診で乳がんが見つかって助かった人たちはたくさんいます。 しかし、対象者の12.4%しか受診せず、それも繰り返し受ける人が多いので、 対象者全体として見ると延命効果がなかったのだと私は解釈しています。
乳がんを発見する方法として、レントゲン写真によるマンモグラフィという方法があります。 経験した人は分かると思いますが、乳房をはさんでレントゲン写真を撮り、がんを診断する方法です。 『あんな検査はもう受けたくない』と騒ぐ人が少なくない検査です。 わが国では、このマンモグラフィと視触診の併用による検診を行うことが計画されています。
乳がんを見つける方法として、もう一つ、超音波検査があります。 現在のところ検診における乳がんの死亡率減少効果について根拠となる報告はなされていませんが、 乳がんの診療では非常に有用な検査方法です。 乳房が大きく、触診でも分からず、マンモグラフィでも発見されないような乳がんを診断することができる優れものです。 つまり、超音波検査はマンモグラフィで発見されにくい乳腺密度が高い受診者に対して特に有用な検査法です。
検診は多数の人たちを対象に効率的に行うことを目的としていますので、視触診とマンモグラフィを併用し、 2年に1回受診するように勧められています。私は個人的には、視触診とマンモグラフィはもちろんですが、 これに超音波検査を加えた検査を1年に1回受けることを勧めています。 1年に1回と努力しても、毎年きちんと受けるのは大変なことですので、1年に1回のつもりで検診を受けるのがいいと考えています。
誤解している人が時々いますが、乳がんは婦人科では扱っていません。乳がんは外科です。 ただ、マンモグラフィはレントゲン写真をきちんと撮ることが重要で、その写真からがんを読み取ることも重要です。 さらに、超音波検査は特殊な技術です。外科といっても、乳がんを専門とする外科の先生に診てもらわなければいけません。 受診を希望する方は気軽に相談して下さい。もちろん私は出来ませんので、弘前市内の専門の先生を紹介いたします。
第21号より