外来で患者さんと話をしていると、隣のおばさんとテレビの話の方が私たちの話よりも重みがあるように感じます。 病気に関しては私はプロですので、個々の患者さんの状態に関して具体的に説明すると、ほとんどの人は納得してくれます。 しかし、「テレビでは、こう言っていた。」などと聞く耳を持たない人もいます。 自分の体に関することですから、健康情報には、まず疑う目を持って判断することが大事です。
私たち医療に従事する人の言葉が、テレビの言葉よりも信頼性がないということは、私たちの努力不足なのでしょう。 私たちにはテレビのような説得力がないので、患者さんはテレビの方に心を引き付けられるのだと思います。 いくら説明しても理解してもらえない時は、無力感を感じることもありますが、患者さんに原因があるのではなく、 私に理解してもらう力が足りないのだと思っています。
私は病気に関するテレビ番組はほとんど見ないので断定はできないのですが、 どうも、世界でも稀な病気を、まるですぐにでもみんなに起こるように話をしているらしいのです。 きっと、誰にでも当てはまるような内容の話をして、不安に陥らせてしまうのでしょう。 テレビは見てくれなければ商売になりませんから、人を引き付けるような話の内容になるのは分かります。 しかし、マスコミは伝家の宝刀のように「表現の自由」を振りかざしますが、人の健康に関することですから、節度が求められます。
先日、「納豆ダイエット」が捏造だったと話題になりました。弘前では放送されない番組でしたので、 当然、私は見ていませんでしたが、納豆を毎日食べるとダイエットできるのだそうです。 その番組が放送された翌日には、スーパーでは納豆が品不足になったということですから、 テレビの影響力の大きさが分かります。体にカロリーを入れてやせること自体を疑問に思わなければいけませんが、 人間の弱さで、食べながらやせるという安易な方に流されてしまうのでしょう。そこが付け狙われたわけです。
NHKの番組などを見ていると、簡単な実験で目に見えるようにしたり、図で説明することで、説得力を増しています。 しかし、研究に従事したことがある人であればすぐに分かりますが、 テレビでは1回の実験を一般化してしまうという基本的な間違いがあります。 医学論文を書く場合には、何回も実験を繰り返し、統計学の手法を使ってその正しさを証明します。 常識だろうと思われることでも、1回の実験で証明できることは、まずありません。
健康に関する情報は巷にあふれています。そして、ビジネスとして流通している健康食品やサプリメントはたくさんあります。 外来患者さんの話を聞いても、効いていると思われる時は、「今の2倍の量を飲むともっと効きますよ」と言われるし、 効果がなかった時は、「まだ足りないからなので、今の2倍の量を飲んで下さい。」と、 結局、飲み続けるしかないように言われるようです。 健康情報だけではありませんが、何事も批判的に考えて行動することが重要です。
第38号より