3月11日午後2時46分と後で知ったのですが、混んでいた午前の診察が終わりに近づいた頃でした。 地震にはあまり驚かない私ですが、さすがに今回は揺れるカルテラックを手で押さえました。 間もなく停電となり、蛍光灯が消え、パソコンやサーバーがシャットダウンです。 レセプトコンピューターは充電されていてしばらく切れませんので、米谷真琴さんが落ち着いた様子で壊れないように切りました。
さて、それからです。今まで経験した地震の中で最大のものでした。 神戸の地震を思い浮かべましたが、まさか津波でこのような大災害になっているとは想像もしませんでした。 電気がなかなか回復しません。電気がなければ何もできません。 金曜日の午後は休診だったのが幸いでした。急患で受診する患者さんにはできる範囲で対応することにしました。 入院患者さんは、暖房が使えず、通常の食事を提供することができません。夜は暗い中での対応は難しいかも知れません。 幸いなことに、お腹にチューブを入れた人などがいましたが、呼吸が苦しいなど重篤な患者さんはいませんでした。 そこで、家庭にお願いした方が安全だと判断して、全員を家族の下に帰すことにしました。
明るいうちに医院は空っぽになりました。さて、帰った後です。電話が通じないことが分かりました。 実は、患者さんの状態は電話で把握して対応しようとしていたのです。その電話が通じないのには参りました。 医院には公衆電話がありますので、辛うじてこの電話で連絡を取れる場合があったというのが実情です。 具合が悪くなれば、患者さんを連れてくるだろうと開き直ってしまいました。どうしようもありませんでしたから。
入院していた患者さんを自宅に帰し、連絡が取れない場合に備えて病歴要約を持たせるべきだったと反省しています。 自宅で急に具合が悪くなって他の病院へ運ばれた場合に、そこの先生は私が何をしていたかが分かりません。 その時点での病状を素早く書いて持たせる必要がありました。 全く新しく入院した患者さん以外は、約2,300人の病歴要約がありますので簡単なことです。
計画停電が実施された場合の対策は中止直前まで実行しました。 結果的に中止になりましたが、連続3時間ほどの停電であれば、診療を早く始めることで何とか対処できる目途が立ちました。 際限もなく繰り返されると診療を今まで通り続けることはむずかしいと思いますが、 患者さんにも多少の負担をしてもらえば診療は続けられると判断しました。
テレビを見ていると、太陽光発電や蓄電池の話が出ていますが、どれも費用を問題にしています。 そこで自宅を想定して、設備には総額300万円かかるとして考えてみました。 電気代1ヶ月1万5千円がゼロになると仮定して、差し引きゼロになるには17年かかります。修理費もかかるでしょうから20年です。 発電効率がもっと上がって買い換えるかも知れません。 こんなことを考えると、お金の損得を設備を整えるかどうかの判断基準にするのは間違いだということが分かります。 判断基準はリスクをどう評価するかだけです。
1ヶ月に約2,000人の患者さんが受診しますので、停電だからと即休診ではちょっと無責任だと思っています。 むしろ、広域の停電では軽い患者さんを私たちが診て、大きな病院の負担を減らすことが私たちの役割だろうと思います。 現段階では、電源として小型の発電機と蓄電池を備え、最低限の医療を提供できる体制を作ろうと考えています。
第63号より