8月初めの夕方、小学校2年生の秀人君は前の日から鼻水が出るのでと受診しました。その他の症状はなく、「風邪と言ってもたいしたことないですね」と一緒に来たおばあちゃんに言うと、「本人が病院へ行くと言うものですから・・・・」とのことでした。
診察中に、右腕に少し汚れた黄色いひもが巻いてあることに気がつきました。「このひもは何んで巻いているの?」と秀人君に聞くと、「ミサンガ」と言いました。私にはどういう意味か分かりませんでしたので説明を聞くと、お風呂にもそのまま腕に巻いたまま入り、そのひもが自然に切れると願いがかなうというのです。「それで、秀人君は何をお願いしているの?」と聞いても、「・・・・・・」と答えません。「他の人に言うと願いがかなわないの?」と聞くとそうではないと言います。よく聞くと、願いはひとつしかかなわないのに、秀人君には二つの願いがあって悩んでいるのでした。
ひとつは「サッカー選手になりたいこと」、もうひとつは「家族みんなが元気に暮らせるように」ということでした。私は「家族みんなが幸せに暮らせるようにするのは、おじいちゃんやお母さんが考えてくれるから、秀人君はサッカー選手になるお願いをしたらいいんじゃないの」と話しました。しかし、秀人君はそれでもどちらにするか決心がつかないまま、「ありがとうございました」と言って診察室を出て行きました。
秀人君の家族は具合が悪くなると私の医院を受診してくれますので、家族みんなの顔が頭に浮かんできました。小学校2年の男の子がこんな優しい心を持っているのに驚き、どんなに幸せな家庭で育てられているのだろうなあと思いを巡らせました。忙しい外来の合間に、こんな子に出会うとすがすがしい思いがします。
第5号より