日本では今日現在、約140万人の人が入院しています。青森県の人口は135万人ですから、青森県の人が全員入院しているようなものです。政府は医療費を削減するためにこのベッドを減らそうとしています。 ベッドを減らすためには、入院する人を少なくする、入院したら早く退院してもらう、この二つしかありません。そして、そのしわ寄せはどこへ行くのでしょうか。
入院する人を少なくするためには、これまで入院して治療するのが常識だったことを外来で行います。抗癌剤による治療を外来で行うこともその一つです。手術前の検査はできるだけ通院しながら行います。 日帰りで手術を受けて入院しないこともあります。患者さんが自宅で具合が悪くなった時にすぐに診てもらえない不安がありますが、むしろ生活に支障を来たさないことが多くなったかも知れません。
早く退院させるために、経済的な面で病院に対して締め付けがあります。長く入院していると入院料が安くなりますので、患者さんには早く退院してもらって、新しい患者さんに入院してもらわなければ経営が成り立たなくなっています。 入院して1ヶ月もすると入院料は安くなり、3ヶ月もすると退院を迫ってくる病院もあります。 この結果、今までに比べて入院する日数は短くなり、元気で退院する人はいいのでしょうが、体力が不十分なまま退院している人も少なくありません。
かつて、高齢者が病状が安定していても入院している状況は「社会的入院」と言われていました。家庭で受け入れができなければ生活の場として仕方がなく入院していたことでしょう。 今は、老人保健施設などが受け皿となりました。しかし、重い病気を持っている人たちは老人保健施設に入所できない場合があります。
このような状況の中で、在宅医療政策が進められています。患者さんの生活の場である自宅で療養することはいいことですが、その第一の目的が医療費を削減するために進められていることが気がかりです。 末期がん患者も、アンケートでは「最期は自宅で死にたい」という場合が少なくないとよく言われます。確かにできるなら自宅で最期を迎えたいのは多くの人の希望だとは思います。
しかし、その在宅の受け皿はどうでしょうか?家族の数が少なくなり、世話ができる家族がいるのでしょうか?同居する家族はいるが、日中は1人暮らしの人はたくさんいます。 年老いた旦那さんを奥さんが世話をしている老夫婦をよく見かけます。茂森新町でも1人暮らしの人がたくさんいます。患者さんと話をしていると「子どもたちに迷惑をかけないでコロッと死にたい」という言葉をよく聞きます。
在宅医療を進めるのであれば、受け皿をしっかりしなければ家族の負担が増えるだけです。 最期は住み慣れた自宅で迎えたい人が多いというのが表向きの看板ですが、在宅医療を進める第一の理由は医療費削減ですから、その減らす分は家族の労働力を提供してもらって埋め合わせるしかありません。削減した医療費は家族負担の増加となることは分かり切ったことです。
沢田内科医院では積極的な在宅医療は行っていません。現在の状況では、通院する患者さんの対応で精一杯だからです。 しかし、本人の希望やご家族と相談して状況が許す場合には在宅で最期を看取っています。国の政策や国民の意識の変化により、在宅医療にも取り組んでいかざるを得ない状況ですので、それに対応していく予定です。
第72号より